今年7月、Sky Newsなどイギリスの現地メディアは衝撃的なレポートを発表した。ライブハウスなど小規模音楽ベニュー(ライブ演奏が可能な会場)が、年々増加する賃料や物価高騰により経営が圧迫され、最近では週に一軒のペースで閉鎖に追い込まれているというのだ。

こうした深刻な状況を受け、今月イギリス政府は小規模ライブハウスの支援を目的とした新たな施策を提案。これはスタジアムやアリーナなどの大規模会場でのコンサートチケットに自主的な課徴金(料金への上乗せ)を導入するよう、音楽業界に求めるものだ。

文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、この「業界主導」の課徴金をチケット価格に組み込むことが、大規模公演の収益を小規模会場の支援に活用する最も効果的な方法だと説明。2025年のコンサートからの導入を目指し、課徴金の目的や小規模会場への恩恵について、ファンへの明確な説明も求めている。

また、Chris Bryantクリエイティブ産業担当大臣は、11月14日に発表された声明文で「小規模ライブハウスは英国で最も価値のある文化的資産の一つでありながら、過小評価されている」と指摘。「だからこそ、業界に対し、今後数十年にわたってライブ音楽業界全体の健全性と将来の成功を確実にする目的で、業界の大手企業に対してチケット課徴金を自主的に導入するよう促している」と述べている。

この政府提案に対し、小規模音楽会場の支援団体「Music Venue Trust」のCEO兼創設者Mark Davyd氏は、「政府からの前向きな対応を歓迎する」とコメント。「この対応が、ライブ音楽業界による迅速な支援体制の構築につながることを期待している」と述べている。

また、ライブエンターテインメント業界団体「LIVE」のCEOジョン・コリンズ氏も、「政府が小規模音楽会場の危機対策を業界に委ねてくれたことを歓迎する」と発言。「会場、アーティスト、フェスティバル、プロモーターが直面している課題に対し、業界主導の解決策を推進していく」と表明している。

すでに一部のアーティストは独自の支援を開始しており、Enter Shikariは2024年のアリーナツアーのチケット1枚につき1ポンドを、Coldplayはイギリス国内での次期スタジアムツアーの利益の10%を、それぞれ小規模会場支援として寄付することを表明している。

このような音楽ベニューを巡る危機はライブハウスシーンに限らず、イギリスのライブビジネス業界全体に広がっている。今年10月、イギリスのナイトビジネス業界団体「NTIA(ナイトタイム産業協会)」は、ライブハウス同様に経済的な危機に陥っているナイトクラブシーンが2020年代をもって消滅する可能性があると警告を発した。こうした状況を受け、10月末にイギリス政府は夜間経済ビジネスに対するビジネス税(事業所税)の軽減を2年間延長すると発表したものの、業界からはビジネス税軽減措置の効果が他の増税により相殺され、業界が直面する構造的な課題に対する実効性のある支援になっていないと強い批判の声が上がっている。

イギリスの小規模ライブハウスは、The BeatlesやEd Sheeranなど、”イギリスが世界に誇る”大物アーティストを輩出するなど、才能ある若いアーティストが活躍するための最初の一歩と言える場所だ。また、イギリス出身アーティストの音楽は日本の音楽シーンにも多大な影響を与えてきた。

今後、才能の原石が発掘される場がどのように危機的状況から脱していくのか。そして、イギリス政府による新たな施策が実効性のある支援につながるのか。イギリス音楽のファンとしては非常に気になるところだ。

source:https://www.gov.uk/government/news/minister-urges-live-music-industry-to-introduce-voluntary-ticket-levy-to-protect-grassroots-venues
https://news.sky.com/story/at-least-one-uk-grassroots-music-venues-closing-per-week-13038180

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