8月から立て続けに「Garmonbozia」と「Ingo Swann」の2曲をリリースし、2年ぶりに音楽活動を本格化させたフライング・ロータス(Flying Lotus)が、最新EP『Spirit Box』をサプライズリリースした。サウンドトラックを除けば、2019年の『Flamagra』以来となるリリース作品となる。

フライローのファンにとって、スティーヴン・エリソンが幅広い影響を作品に取り入れるアーティストであることは明白だ。今作『Spirit Box』でもその影響の多様性は発揮されており、過去作品と比べても、より一層独自性の強い作品に仕上がっている。

これまでは、宇宙、アニメ、ジャン=ミッシェル・ジャールの音楽などからの影響が垣間見られたが、今作では超自然的なものだったり、見落とされがちなもの、そして神秘的な要素がインスピレーション源となっている。ヴァンゲリス風のシンセサウンドから始まる一曲目の「Ajhussi」は、フライローらしい華麗かつ重厚な楽曲を予感させるが、瞬く間にきらめくハウスビートとエフェクトのかかったボーカルが加わり、異なる方向へと展開していく。フライローがハウスを?と意外に思うかもしれないが、本編最後に収録されている以前、話題を呼んだ「Ingo Swann」も、ややメランコリックでありながらも躍動感のあるダンストラックに仕上がっている。この意外性こそが、スティーヴン・エリソンが生み出す作品の唯一の共通点だ。

そして本編の最後を飾る「Garmonbozia」は、彼にとって最も不気味さを放つ部類のトラックと言えるだろう。自らのヴォーカルをフィーチャーした本楽曲で、彼はドロドロとしたベースラインに身をゆだね、前後に揺れ動くビートに乗って「痛みと悲しみ」を歌う。

中盤の「The Lost Girls」と「Let Me Cook」では、シド・スリラムとドーン・リチャードがゲストヴォーカルとしてフィーチャーされている。「The Lost Girls」では、疾走感あるパーカッションにスリラムの情感あふれるボーカルが加わり、楽曲に温かみを与えている。一方、経験豊富なドーン・リチャードは「Let Me Cook」でゆったりとしたムードで聴く者を誘惑する。

約20年もの間、常に先駆者であり続けてきたフライング・ロータスが、新たなステージへと歩み出したことを予感させる本作。他の追随を許さないこの天才は、今もなお、まだ見ぬ世界を切り開き、音楽の未来を創造し続けている。

本格的な音楽活動は、2022年の「The Room」以来だが、フライング・ロータスことスティーヴ・エリソンの創作活動は、音楽の枠を超え、その多才さを爆発させている。2021年にNetflixオリジナルアニメシリーズ「YASUKE -ヤスケ-」で音楽・製作総指揮で参加したのに続き、ホラー映画『V/H/S/99』で、共同脚本、監督、音楽を手掛け、最近では『ブレイキング・バッド』のアーロン・ポールと『三体』のエイザ・ゴンザレスが出演するSFホラー映画『Ash』を撮り終え、この作品でも監督と音楽を担当している。またバスケットボール界の伝説的選手、マジック・ジョンソンのドキュメンタリー『マジックと呼ばれる男(原題:They Call Me Magic)』のテーマソングも手がけている。

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