2016年8月に東京・表参道にオープンしたヴェニュー・VENTは、毎週、耳の肥えたクラバーを唸らせるコアなラインナップで人気を博し、オープンから1年足らずで今や東京を代表するクラブになったと言っても過言ではない。そんなVENTに関して今回Pointedではその人気を支えるアーティストのブッキングや定評のあるサウンドシステムなどその人気の秘密に関して、エグゼクティブ・プロデューサーの大城 啓一郎氏にインタビューを行った。
👉Interview / VENT エグゼクティブ・プロデューサー 大城 啓一郎
▶︎VENTのオープンの経緯はどういったものだったのでしょうか?
大城 啓一郎(以下O):元々、自分は別のベニューのブッキングマネージャーをしていまして、そこが諸事情でなくなってしまい物件を探していたところ、偶然にもオファーをいただきまして、2016年の8月にオープンしました。
アルバイトスタッフを含め、企画・PA照明・デザイナー・PR等、素晴らしいチームに恵まれ、2017年の8月に、おかげさまで無事に1周年を迎えることができました。やっと1才かという感じです。
本当に”良いもの”をブッキングしたい
▶︎ブッキングを決めるポイントはどういうところにありますか?
O:VENTは、わかりやすく言うとテクノ・ハウスの専門店です。その中で細分化されたジャンル、例えば、Deep house / Minimal / Nu disco / Hard Technoなどなど、バランスよくブッキングするようにしています。
もちろん、DJの事はDJが一番よく知ってるのと、オーガナイザー主催のイベントも多いので、DJやオーガナイザーとはよく情報交換をしています。彼らがあってのパーティーで、僕らはあくまで裏方です。それを踏まえた上で、箱側としてポイントを挙げるとすれば、大きすぎず、小さすぎない、VENTのサイズでしか表現できない事を追求することが、オリジナリティーにつながると思っています。
逆にいうと、耳の肥えたコアなクラウド好みのDJや、シーンの最先端を突き進んでる鬼才や異端児。こういったアーティストを紹介するために、このサイズの物件を選んでます。
どういうブッキングをしたいのか、どういうパーティーをして欲しいのか、その事を最初から考えて箱のサイズを選んだので、今のブッキングが実現できていると思います。この箱のサイズでしか表現できない事の中で、本当に” 良いもの”か?、お客さんがワクワクするか?、この点を心掛けて、追求していけたらと思っています。
あのアーティスト来日しないかな?に応えられる箱でありたいです。もちろん今のブッキングが完璧だとは思っていません。まだまだ理想には程遠いですが、いつかは、全く無名のアーティストでも箱への信頼だけでお客さんが来てくれたり、国内DJだけのパーティーが増えたりと、日本のシーンが活性化して海外との差がなくなればと思います。そういった状況を作るためにも長く続けることが大事なので、利益を出し続けなくてはいけないし、バランスをとりながらやっています。まだまだ先は長いです笑。
▶︎遊びに行った人から音が良いとよく聞きます。クラブのサウンド作りのこだわりはどういったところにありますか?
O:サウンドシステムについてはポイントがあるとするれば2つです。1つ目はスピーカー、2つ目はルームアコースティック(空間の響き)です。
1つ目のスピーカーですが、沢山のメーカーを実際に聴きに行きました。その中でVENTで採用したのがTAGUCHIというメーカーのものです。これについては前知識なしで聴きに行ったのですが、鳴りが他のものと比べて群を抜いていました。それがあまりにも衝撃的だったので次に箱を作るならこのスピーカーだと決めてました。今でもその時の事は鮮明に覚えてます。
なぜこのスピーカーが良いかというと、普通スピーカーのユニットは円すい状になっているんですが、このスピーカーのユニットはフラットなんです。昔から理論上はフラットの方が音が良いというのはわかっていたのですが、フラットでの駆動に耐えうる軽さと剛性を持った素材が存在しなかったそうなんです。長い年月と膨大な試行錯誤の末に、近年になってようやく宇宙開発に使うようなハニカム状の金属が登場し、この素材ならフラットユニットとして適合するのでは?というところから、やっと完成したスピーカーだそうです。
2つ目のルームアコースティック(空間の響き)というのは簡単にいうと手をパンと叩いた時の残響を想像して欲しいのですが、これを適度に調整する事。なぜこんな細かい話をするかというと、機材の品質は良いサウンドシステムの最低条件なのですが、それは一部分でしかなく、ルームアコースティックの良し悪しがサウンドシステムに与える影響がはるかに大きいからなんです。なので、この部分についてもしっかり考えました。具体的には壁の素材や角度に残響を抑えるための工夫を凝らし、最後に高品質な調音パネルで空間の響きを調整してもらいました。
流行りの音圧重視のサウンドではありませんが、シーンに一石を投じる素晴らしいサウンドシステムになったかと思います。もちろん、まだまだ改善の余地はあって、これからどこまで音が良くなるのか僕もワクワクしてます。
今回サウンドデザインをしてくれたヒランヤアクセスの藤田晃司さんと、相談役としてサポートしてくれたティールの町田淳さんが素晴らしい仕事をしてくれた事を声を大にして言いたいです。音の良い箱を作る上で誰に頼むか凄く悩みましたが、二人と仕事ができて本当に良かったです。
町田さんとは暇を見つけてはスピーカーを試聴しに行きましたし、タグチのスピーカーの導入やサウンドデザインを藤田さんに頼むというのは町田さんと相談して決めました。藤田さんとも、すごく長い時間を共有しました。全くの初対面からの仕事でしたが、直ぐに才能と魅力に引き込まれてしまいました笑。丁寧に細部にまでこだわり、素晴らしいサウンドシステムをデザインしてくれましたと思います。ケーブル1本に到るまで聴き比べしたのが今となっては良い思い出です。
▶︎空間デザインについても、今までの箱とは一味違いますね。
O:内装については、空間デザイナーのたしろまさふみサンにお願いしました。音楽やパーティーの邪魔をしたくなかったのと、性別すらも超えて欲しかったので、誰にでも使いやすいフラットなスペースでありつつもオリジナリティーを出したいとオファーしました。
たしろサンとのセッションでミニマルと言う言葉にたどり着いたのですが、ミニマルと何もないの違いが出るように細心の注意を払いました。ミニマルと言うのは、主張したい事がある。その主張を強調するために、無駄をそぎ落とすと解釈してます。無駄を削ぎ落として、何を強調したかったのか。VENTの内装で言えば、言いたいことは2つだけ。回転扉と植物です。
回転扉に関しては、VENTの裏コンセプトの一つに” あいだ “をデザインすると言うのがあって、VENTって最終的に何をしたいのかな?って言うのを突き詰めた時に、人と人との良質なコミュニケーションの場所であって欲しいと言うのに行き着いたんです。
なんで良いDJを呼ぶのか、なんで良いサウンドシステムじゃないといけないのか、極論、音が良いだけなら家で聴いてればいいわけだし。。
VENTは良い音楽が好きな人達が、良い時間や良いコミュニケーションを楽しめる場所であって欲しい。だから人と人との間、スピーカーと鼓膜の間、”あいだ”をデザインする。回転扉はこの”あいだ”の象徴なんです。神聖なダンスフロアーに行くための鳥居であり、物件の小ささを少しでも緩和するための、区切ってるようで区切ってない、微妙な”あいだ”の演出。この二つの機能を満たす、まさに”あいだ”をデザインするVENTの象徴です。
実際にたしろサンがこの回転扉の案を持ってきた時、点と点が全て繋がって、一本筋ができたんです。初めてサウンドシステムを聞いた時と同じくらいのハイライトの1つでしたね。昔からの友人なので、本人には言わなかったんですが、こいつヤバイなと思いましたよ笑。
もう一つの植物に関しては、僕のただの直感だったのですが、大きな植物がある箱がなかったので、絶対に入れたいなって思っていたんです。で実際作ってみて、植物の下に友達・恋人・今知り合った人同士が座って喋ってるのを見ると、なんかいいなーって思います。僕がVENTで好きな光景の一つです。VENTって回転扉があるトコでしょ?表参道の植物があるトコでしょ?と言ってもらえたら嬉しいです。
”何を残したか”ということが重要
▶︎これからのTOKYOのナイトカルチャーをどうお考えですか?
O:悲観的な意見も多いですよね笑。でも自分達で作っていくしかないと思っています。若者のナイトライフ離れや、マスな音楽の流行だったり、少子化だったり、それこそネガティブな情報はいくらでもあって時代的には辛い時代かもしれないけど、変えられない事や少数派を嘆いていてもしょうがないので、その状況下で生き残って、僕らが何を残したかが重要だと思います。
僕自身、この業界にいるのは「先輩達がかっこいいことをしていたから自分もそういう風になりたい」と思ったからなんです。だから僕らの世代がこの時代を乗り越えて、若い人たちがかっこいいと思ってくれるものを残せれば、勝手に次の世代が出てくるのかな?と思ってて、シーンがこの先どうこうよりは僕らが今出来ることは何かを考えるようにしてます。
例えばテクノ・ハウス業界も、暗い話ばかりではないと思うんです。厳しい厳しいと言われている中でも、DJ NOBUさんの海外での目まぐるしい活躍をはじめ、SODEYAMAさん、CHIDAさん、GONNOさん、MASUDAさん、TAKAAKI ITOHさん、SOさん、OTSUKIさん、HARUKAさん、AKIMOTOさん、HAYASHI YOSHINORIさん、Q SAKAMOTOさんなどなど、ここでは書ききれないですが、こんなに日本人DJが海外で活躍してた時代って無かったと思うんです。もちろんその前に、卓球さん、TOMIIEさん、KEN ISHIIさん、TOWA TEIさん、TANAKA FUMIYAさん達の世界での活躍があったからこそですが。
これって以前の日本サッカー界に似てると思いませんか?カズ選手がセリエAに行って、中田選手が世界TOPクラスのチームの主力として活躍して、そのあとの世代は海外チームと契約するのが当たり前になって、その人達に憧れて競技人口が増えたり、指導者のレベルが上がったり、環境が整ったりで、ものすごく日本サッカーのレベルが上がった。
テクノ・ハウス業界でも、これに似た事が起こりそうな兆しはあるんです。さっき名前を挙げた人たちに憧れてDJをはじめたり、ジャンルを変えた若い人達が出始めてる。NOBUさんの世界的フェスティバルDekmantel やADEへの出演や、近年の快挙の数々はサッカーの中田選手に匹敵する偉業だと思っています。新聞とかで取り上げたほうが良いと思うんですけどね笑。
また国内でも、EMMAさんやKO KIMURAさん、Watusiさん、Q’HEYさんなどが、矢面に立ってシーン全体の事や、次の世代につないでいくために精力的に活動しています。僕らなんてまだまだ自分達の事で精一杯ですが、こういった先輩達の優しさに助けられている分、頑張らないといけないなと思います。
何で恩返していくかと言うと、より良いものを残す。これしか無いと思います。先人達の真似をしても、ただの焼き直しなので認めてもらう必要はないけど、いや、やっぱり認めて欲しいかな笑。
影響は受けてるし良いものは踏襲してるつもりなので、自分達なりのセンスや時代感を盛り込んだ結果、
なんか期待してたのと全然違うけど、まあいいじゃねーか!みたいに言ってもらえたら嬉しいですね。
なんの話してるかわからなくなりましたが笑。何が言いたいかというと、箱もDJもオーガナイザーもレーベルもレコード屋もマネージャーも、業界の各分野がそれぞれ長く生き残って、さらにカッコイイと思ってもらえることが両立できれば、僕がそうだった様に、自然と次の世代はついて来てくれるのかなと思います。
若いカリスマDJの出現だけで、シーンが活性化するかもしれませんし、箱が安定すれば、逆に若いDJやオーガナイザーを育てる事もサポートする事も可能です。質の高いレーベルやレコード屋があれば、良いDJが増えますし、DJの人口が増えれば、レーベルやレコード屋も活性化します。
良いマネージャーや指導者がいれば、音楽だけで食べれる人が増え、より多くの若者に夢を与えれるかもしれません。シーンが活性化すれば、DJはもっと音楽だけに集中できるかもしれませんし、優秀な人材が、貧乏か、良い音楽か?なんて残酷な選択をしなくて良い日が来るかもしれません。
全ては繋がっているので、僕らは僕らができる事、良い箱を少しでも長く続ける事で貢献できたらと思います。僕らの世代では先進国に並ぶ様なシーンを作る事は無理かもしれませんが、次の世代が作ってくれるかもしれませんし、その次の世代かもしれません。
すごく長い戦いだと思います。2,3年で埋まる様な差ではありません。けどやるからには、、少なくとも自分達がやってやるんだという気持ちを持ちながら、とにかく生き残って、少しでも先に進んだところでバトンを受け取ってくれる世代が自然と出てきたら良いなと思います。別にそれが、お前ら年寄りはもうダセーから俺らが変えてやるぜって言うのでも、何でも良いと思います笑。
今の30代前半の世代とか、気合の入ってる人達が団結し始めてるので、ワクワクしますね。彼らは彼らで好き勝手やって、独自のセンスと時代感を盛り込んで、僕らが想像できない面白いものを作ってくれると思います。早く僕らも一人前になって、彼らやその下の世代を少しでもサポートできるようにならないとですね。。。
なので、繰り返しになりますが、とにかく僕らはまずは、生き残る。続ける。言い方は色々ありますが、これが難しいんですけどね。。。歴史のある箱は本当にすごいと思います。まだ1才なのに、ナニを生意気言ってんだと言う感じですが、志は高くと言うことで大目にみてください笑。
▶︎今後予定されているイベントの中で特におすすめパーティーは?
O:具体的なパーティーは立場上ちょっと言いづらいのですが、本当のことを言うと新しい出会いをしてほしいので自分の知らないアーティストが出演する時に遊びに来てほしいですね。専門店なのでそこを楽しんで欲しいです。寿司屋でトロだけ食べてたらもったいないじゃないですか? アナゴ食べたことがない人いたら食べて欲しいなと。
寿司屋で思い出しましたが、来日したDJを寿司屋に連れていった時のことなんですが、その人はイカが好きじゃないと言ってたのですが、その店のイカに自信があったので内緒で食べさせたんです。そうしたら”これがイカか !? “と人生が変わったとまで言って喜んでくれたんです。食べ物でこんな感動は味わったことが無いと。帰国した後も、あのイカが忘れられないと連絡がありまして笑。そう言うのってなんか嬉しいじゃないですか。VENTでも毎週本物を集めているので、是非まだ自分が知らない未知の音楽との出会いも楽しみにきてほしいです。
▶︎最後に一言
実は一番話したかったんですが笑、一番大事な” 人の部分 “、これがまた幸運にも、フレンドリーでナイスで愉快なスタッフに恵まれたので、是非、気軽に遊びに来てください!!
2020/04/4 更新:
VENTが新型コロナウイルス感染拡大防止を目的に営業自粛。それを受けてクラウドファンディングを開始。
▶︎VENT Info
〒 107-0062 東京都港区南青山3-18-19フェスタ表参道ビル
B1F
http://vent-tokyo.net/
Text & Interview by Pointed
All Images by VENT