日本時間4月12日(土)〜4月14日(月)、4月19日(土)〜4月21日(月)に開催される世界最大級の音楽フェスティバル「コーチェラ2025(Coachella Valley Music and Arts Festival)」。
今年はLady Gaga、Green Day、Post Maloneがヘッドライナーを務めるほか、さらにWeezer、Ed Sheeranという、2組のビッグアーティストの追加出演も決定。また、恒例のYouTubeライブ配信も行われる。
本稿では、今年のラインナップの中でも特にエレクトロニック系の注目すべき12組のアーティストをピックアップ。彼らのキャリアや音楽性、おすすめ音源を紹介する。
Ca7riel & Paco Amoroso
アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のCatriel Guerreiro (Ca7riel) とUlises Guerriero (Paco Amoroso)によるデュオ、Ca7riel & Paco Amoroso(カトリエル&パコ・アモロソ) 。幼少期に出会い、2010年からコラボレーションを開始した。デュオ結成当初はラテン・トラップと実験的なサウンドを融合させた音楽性を打ち出し、アルゼンチンのアーバンミュージック第一波の一翼を担った。グローバルで大きく注目を集めたきっかけは2024年10月のNPR「Tiny Desk Concerts」でのパフォーマンスのバイラルヒットだ。この成功は彼らがアルゼンチンのローカルシーンを超え、グローバルな舞台へと躍進する絶好の機会となった。
ラテン・トラップ、ヒップホップ、EDM、ヒップハウス、ラテン・ポップなど、ジャンルを横断する実験的なサウンドが特徴。また、歌詞も音楽性もエキセントリックで独特のスタイルを持つ。ライブでは生楽器を取り入れ、先述の多様なエレクトロニック・ミュージックを融合させたエネルギッシュなパフォーマンスを展開する。すでに7月に開催されるフジロックへの出演も決まっており、コーチェラでのパフォーマンスはその絶好の予習の機会となる。
おすすめ音源は、2024年のアルバム『Baño María』と直近リリースのEP『Papota』。『Papota』はTiny Desk後の感情(インポスター症候群、名声への恐れなど)を探求した楽曲も収録されている。
Indo Warehouse
2022年にニューヨークで設立されたインド系DJ/プロデュサーで構成されるコレクティブ、レコードレーベルおよびイベントシリーズ。アメリカ、イギリス、ガーナ、インドなど異なる地域出身のメンバーで構成されている。南アジアの伝統をダンスフロアにもたらすことをミッションに掲げ活動している。既存の音楽に自分たちが求めるエネルギーが欠けていると感じ、このサウンドを育むプラットフォームとして創設された。
南アジアのリズム、ボーカル(パンジャーブ・フォーク、グジャラート・フォークなど)、楽器をハウスやテクノと融合させた”Indo House”という新興ジャンルのパイオニア。同ジャンルをアフロハウスやラテンハウスのように、南アジア版ハウスミュージックと位置づけている。
おすすめ音源は、メンバーのAnvaya, AREUBLUE & Payal JayによるEP『Garba Szn 2』とKunal Merchantによる「Chhan Chhan」リミックス、。
Chris Stussy
オランダ出身のDJ/プロデューサー。2014年に地元のクラブでDJを開始し、2015年から音楽制作に注力し始めた。2023年に自身のレーベル「Up The Stuss」からリリースした「All Night Long」とFUSE Recordsからの EP『Midtown Playground』でストリーミング数が急増。月間リスナー100万人を超えるブレイクを果たした。現在は世界中の有名クラブやフェスでプレイし、自身のレーベルとイベントシリーズ「USS」も主宰している。
ディープテック、ミニマルハウス、エレクトロハウス、ジャズ、ファンク、ディスコの要素を取り入れた複雑なパーカッション、キャッチーなベースライン、温かみのあるシンセを特徴とし、クラシックとモダンなハウスサウンドを融合させた音楽性を打ち出している。
おすすめ音源は自身が参加するユニット・ACROSS BOUNDARIES名義のEP『Sense of Future』、話題となった「All Night Long」。
Horsegiirl
2022年から活動するベルリン拠点の覆面DJ/シンガー/ソングライター。馬のマスクで正体を隠し、半人半馬のキャラクターである”Stella Stallion”という架空の人物として、”Sunshine Farms”出身という設定で活動している。2023年のシングル”My Barn My Rules”がTikTokでバイラルヒットし、BBC Radio 1での騒動も相まって知名度が急上昇した。
主にハッピーハードコア、UKハードコアを基盤に、彼女自身が”yeehaw-meets-hardstyle”と称するカントリーとハードスタイルを融合したサウンドが特徴。キャラクターに関連した遊び心のあるテーマ、Avril Lavigneのサンプリングなど、インターネット時代を象徴する音楽性を展開している。
おすすめ音源はEP『V.I.P. – Very Important Pony』とブレイクのきっかけとなった「My Barn My Rules」。
Keinemusik
2009年設立のベルリンを拠点とするコレクティブ、レーベル、ネットワーク。中心メンバーは&ME、Rampa、Adam Port、そしてマネージャー兼DJのReznik。独特のビジュアルアイデンティティとDIY精神で知られる。メンバーの&MEとRampaが2022年のDrakeがハウスミュージックに接近したアルバム『Honestly, Nevermind』にプロデューサーとして楽曲提供(”Falling Back”と”A Keeper”)したことや、エジプト・ギザのピラミッドでのバイラルセットにより、近年メインストリームでの注目度が飛躍的に高まった。
ミニマルテクノ/テックハウスから、近年は音楽性がより温かくメロディックでボーカル中心のサウンドへと進化し、しばしばアフロハウスやディープでリズミカルなダンスミュージックと評される。グルーヴィーでエモーショナル、エピックなサウンドが特徴。
おすすめ音源は2021年のアルバム『Send Return』とヒット曲「Move(Adam Port & Stryv ft. Malachiii)」(Camila Cabelloをフィーチャーしたver.もあり)。
DJ Gigola
ベルリン拠点のDJ/プロデューサー。若くしてベルリンのクラブシーンで経験を積み、2016年にベルリンのコレクティブ/レーベル「Live From Earth」に参加。当初はDJとして活動し、ミキシングやKev Koko(元FJAAK)とのコラボレーションを通じて音楽制作へと移行した。
自身のスタイルを「ジャンル・フルイド」と表現するように、テクノ、ハウス、パーカッシブなリズム、トランス、イタロディスコ、ポップ、ヒップホップのアカペラまで多岐にわたるジャンルをミックスする。自身の楽曲プロダクションでは、アンビエント、ゴアトランス、ASMRから、スローダウンしたハードスタイルまでを探求する。
おすすめ音源はアルバム『Fluid Meditations』(2023)、とKev Kokoとのコラボ曲「Papi」。
Klangkuenstler
ベルリン拠点のDJ/プロデューサー。”サウンドアーティスト”を意味する名前をもつ彼は、キャリア初期は異なるスタイルを制作していたが、次第にハードテクノに焦点を当てるようになった。現在は自身のレーベル「OUTWORLD」を主宰している。
90年代の影響を強く受けた、ハードヒッティングでインダストリアル、しばしばダークなテクノで知られている。ドライビングなリズム、強烈なエネルギー、時にメランコリックでアグレッシブなサウンドが特徴。
おすすめ音源は「Toter Schmetterling」と「Die Welt Brennt」。
Kumo 99
2020年1月に結成されたロサンゼルス拠点のデュオ。メンバーはAmi Komai(ボーカル、元LAハードコアバンド)とNate Donmoyer(プロダクション、元Passion Pitドラマー、Shuttle名義でNinja Tuneからリリース、Gesaffelstein、The Weeknd、Pharrellなどのプロデュース/作曲歴あり)。エレクトロニックな音楽性が基盤にも関わらず、ハードコア/パンクバンドとの共演も多く、エネルギッシュなライブパフォーマンスで知られている。
「レイヴ化したハードコア」と評され、エレクトロニック・ダンス・ミュージックにパンク精神を注入したサウンドが特徴。ヘヴィなブレイクビーツ、ジャングル、ドラムンベースのリズム、EBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)、インダストリアル、テクノの要素を取り入れ、Ami Komaiによる日本語ボーカルがユニークな質感を加えている。
おすすめ音源はアルバム『Headplate』(2023)と最新シングル”Eyesore”(2025年3月)。
Snow Strippers
デトロイト拠点のデュオ。Tatiana Schwaninger(ボーカル)とGraham Perez(プロデューサー)から成る。2000年代リバイバル”インディー・スリーズ”の一部としてオンラインで注目を集め、初期作品は自身のレーベル「Nice Bass Bro」からセルフリリースし、2023年にSurf Gang Recordsと契約。Lil Uzi Vertのアルバム『Pink Tape』(2023)にフィーチャーされたことで更なる注目を集めた。
ウィッチハウス、エレクトロクラッシュ、トランス、ハードスタイル、ニューレイヴ、シューゲイズ、ハイパーポップの要素を取り入れてたエレクトロポップとEDMの強烈でぼんやりとした融合が音楽性の特徴。時にCrystal CastlesやSALEMと比較され、「エレクトロニック・カオス」などと評されることも。2000年代/2010年代の音楽やファッションからの影響も色濃い。
おすすめ音源はTikTokでバイラルヒットした「Under Your Spell」Lil Uzi Vertとの「It’s A Dream」。
The Dare
Harrison Patrick Smith(1996年LA生まれ)のソロプロジェクト。以前はTurtlenecked名義でソロプロジェクト兼バンドとして活動していた。ニューヨークに移住後、パンデミック中にThe Dareとして活動を開始。デビューシングル「Girls」(2022)が話題となり、複数のメジャーレーベルとの争奪戦の末、Republic Recordsと契約。ニューヨークのインディー・スリーズリバイバルや「Dimes Square」シーンと関連付けられ、Charli xcxの「Guess」のプロデュースも手がけている。
ダンスパンク、エレクトロクラッシュ、エレクトロポップ、ニューレイヴ、インディーロックが融合したサウンドが特徴。プレイフルで、時に「間抜け」や「馬鹿げた」と評される歌詞、キャッチーなメロディ、ハイエナジーが持ち味で、過度にシリアスな音楽への意図的な反発が感じられる。LCD Soundsystem、The Rapture、Peachesなどと比較されることが多い。
おすすめ音源はブレイクスルーのきっかけとなった「Girls」や「Good Time」を収録したデビューアルバム『What’s Wrong With New York?』と最新シングル「LCA」。
Sara Landry
アメリカ人DJ/プロデューサー。テキサス州オースティン出身、現在はアムステルダム拠点に活動するDJ/プロデューサー、レーベルオーナーで、キャリア初期はオースティンで活動。初期リリースはMau5trapやKraftekからリリースし、2021年に自身のレーベルHekate Recordsを設立、。2022年にアムステルダムへ移住した。2023年のBoiler Roomセット(年間再生数3位、600万回超)で爆発的な知名度を獲得。2024年にはTomorrowlandメインステージ初のテクノアーティスト、DJ Mag Top 100で75位ランクイン、大規模会場をソールドアウトさせるなど、大きな成功を収めている。また、5月に開催されるTHE BEACH 2025での初来日が決定している。
「ハードテクノの女教皇」「ハードテクノの女王」として知られ、”ダークで、ドライビング、そして神々しくフェミニンなインダストリアル・テクノ”という音楽性が持ち味。
おすすめ音源はアルバム『Spiritual Driveby』と「Legacy」。
2hollis
イリノイ州シカゴ出身で現在LAを拠点に活動するプロデューサー/シンガー/作曲家/ソングライター。父親はポストロックバンド「トータス」のドラマーで「ア・グレイプ・ドープ」名義でも活動するジョン・ハーンドン、母親は音楽マネジメントと広報のプロフェッショナルでスクリレックスとレーベル「OWSLA」共同設立などの実績を持つ。10代の頃から「Drippysoup」名義で音楽活動を開始し、11歳で手にした音楽制作ソフトの使い方をReddtやDiscord、YouTubeを通じて独学で習得した。TikTokを中心としたSNSでの人気も高く、2025年2月の初来日公演のチケットは即完売するなど実際の動員力も持つ。8月にはSONICMANIA 2025出演のための再来日も決定している。
クラウドラップ、レイジ、EDM、ハイパーポップ、エレクトロクラッシュなどを融合したジャンルレスなサウンドが特徴。特に強烈な存在感を放つ808ベースや攻撃的でありながらメロディックなシンセ、「Minecraft」の効果音など意外なサンプル使いが彼のシグネチャー的な要素となっている。また、長いプラチナブロンドのヘアスタイル、鼻筋の黒いライン、滲んだアイライナーなど独特のビジュアルイメージもアイコニックな要素となっている。
おすすめ音源は、デヴィッド・ボウイの「Heroes」を引用した「cope」や美麗なピアノフレーズとヘヴィーなフューチャーベースが融合した「burn」などを収録した最新アルバム『star』と盟友Nate Sibとの「affraid」。
今回取り上げた12組のアーティストのキャリアやサウンドからは、いくつかの現代的な音楽トレンドが見えてくる。まず、1つ目の特徴として挙げられるのが、Tiny Desk、Boiler Room、TikTokといったプラットフォームが生み出すバイラルが、アーティストのキャリアを急加速させる力を持つということだ。
次にIndo Houseやハードテクノといった特定のサブジャンルが、グローバルな規模で勢いを増していることが挙げられる。さらにかつて2000年代に見られたようにエレクトロニックミュージックとパンク/ハードコアのようなオルタナティブシーンとの境界線が曖昧になった音楽性が再びオーディエンスを引きつけているということだ。そして、インターネットカルチャーが浸透した現代において、強力なアーティスティック・アイデンティティやキャラクター性がいかに重要であるかということも挙げられる。
もちろん、音楽シーンの最前線に立つ超大物アーティストが務めるヘッドライナーも魅力的だが、本稿で紹介したアップカミングな出演アクトにも触れることで今年のコーチェラをより深く楽しめるはずだ。