2024年最初に開催されたフリースタイル・ラップバトルの大会、「Red Bull Roku Maru」が1月6日(土)に東京・渋谷の「WOMB」で行われた。

「Red Bull Roku Maru」は日本ではめずらしい1対1の時間制フリースタイルバトルで、各自の持ち時間は60秒の2ラウンド。バトル特有の即興性に加えて、1分間で”作品”を作り上げる音楽性が求められる戦いが繰り広げられた。

参加MCは、Yella goat、Fuma no KTR、MAKA、龍鬼、瀧澤彩夏、Ry-lax、NARIMIMI、RunLine、呂布カルマ、DOTAMA、018、SATORU、MOL53、COCRGI WHITE、L.B.R.L、そして予選を勝ち抜いたgableの16人。ベテラン、若手といずれもシーンから注目を集めるメンバーが名を連ねた。

即興のリリックと独創的なスタイルで競い合い、観客を熱狂させたこの大会は、2024年の日本ヒップホップ・シーンにおける記念すべき一歩となった。

審査にあたったのは、レジェンドの漢 a.k.a. GAMI、ERONE、KEN THE 390とバトルシーンを支えてきた3人の重要人物。また、ホストMCとして怨念JAPとACEが舞台を盛り上げ、会場の熱気を高めた。さらに、DJブースではDJ YANATAKEとDJ TIGUが腕を振るい、安定したパフォーマンスでバトルのリズムを刻んだ。

ゲストライブにはSKRYUが登場。「超Super Star」「Mountain View」などのヒット曲のほか、YouTubeでMVが1100万回以上も再生されるなど、2023年を代表するバイラルヒットとなった「How Many Boogie」を、大会にも出場したFuma no KTRを呼び込んで披露。ヘッズを盛り上げた。

<60秒の長尺リリックが会場を熱狂の渦に巻き込む>

1回戦のオープニングバトルとなったのは、Yella goatとFuma no KTR。フロー巧者同士のバトルは初めからハイレベルな戦いに。ステージ全体を使いながら、Fuma no KTRが開始から飛ばしていくと、Yella goatはメロディアスなフローで応戦したが、勢いに押される形でFuma no KTRが勝利を手にした。

シーンに彗星のように現れた「アイドルラッパー」瀧澤彩夏はRy-laxと対戦。先攻後攻の決定から、Ry-laxが「Lady first」とCOCRGI WHITEの言葉を”サンプリング”して、試合開始前から会場の空気をつかむ。急成長を見せる瀧澤彩夏も同じ「Lady first」とバースを蹴って口火を切るが、Ry-laxが円形のステージを生かして観客とグータッチをするなど巧みなステージングで流れを離さず勝利を手に。

1回戦で最大の盛り上がりを見せたのは、呂布カルマとDOTAMAの一戦。優勝候補同士が初戦で当たるとあって、入場から会場のボルテージは上がる。先攻のDOTAMAが「対戦相手は呂布さん、マイメン」と親しみをこめつつ、「まあ良い勝負できるよ、かろうじて / これが俺からの社交辞令」と皮肉を吐いて”らしさ”全開。呂布カルマも「きっつ、人生で一番長い1分間だったかも」と応じて、「俺は1分間じゃ足らねぇくらいベロと頭が回っているぜ」と自らのバースを締めくくった。互いに「らしさ」がぶつかりあうバトルで、勝利を手にしたのは呂布カルマ。

そのほか、格闘技大会などでも存在感を発揮し、ジャンルレスに活躍するSATORUが登場。独特のステージングと、フリースタイルでも着実にスキルを積み重ねていることを見せつけるフローで観客を沸かせた。

COCRGI WHITEは「シグネチャームーブ」ともいうべき、座り込みのスタイルで対戦相手のL.B.R.Lに背を向け「俺以外の60秒が安くなる」「俺の後ろのやつの声なんて」と若手を相手にしないスタイルを見せた。参加したMCそれぞれが、相手をディスするだけでなく、自身の音楽性やスタイルを示していく、レッドブルの大会ならではのバトル風景が広がった。

<ヒップホップカルチャーを前面に出したスタイルでMOL53が圧巻の勝利>

様々なベストバウトが生まれた大会にあって、決勝はMAKAとMOL53に。準々決勝でCOCRGI WHITE、準決勝で呂布カルマという強豪を立て続けに下したMOL53が先攻となると、試合を一気に押し切った。

MAKAは今大会に出場していない同郷のラッパーや格闘技大会で結果を出したSATORUなどを効果的にネームドロップして会場を沸かせたが、MOL53のパンチラインには及ばず。

圧巻はMOL53の2本目。「これがラストだ、聴いておきな」というシャウトから始まったバースは、MOL53が観客に向けて「俺らのシーンは終わらない」「俺の音楽をパワーでねじ伏せようとするやつに応戦するぜ」「勝ち方、客の上げ方 そんなもん必要ねえだろ 耳かっぽじってよく聴きな」とヒップホップカルチャーを前面に出したスタイルで会場の空気を味方につけ、優勝を手にした。

優勝後のウィニングラップでは、「2024(年)、アタマから災難ばかりがある」と切り出すと「日本が大変な時だ バトルなんかやっているヒマじゃねぇけど マイクで与えられるものはなんだ」「得たものよりも与えたもの 何かをつなげていこう」と語りかけるように、歌い上げた。

自然災害や大規模事故に揺れる日本社会にあって、ヒップホップに何ができるか――。そう訴えかけるようなラップは、エネルギーに満ち、それぞれのスタイルがぶつかり合った大会を象徴するものになった。激動の年初に行われた「Red Bull Roku Maru」の意味を代弁するような大会の締めくくりとなった。

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