Universal Music Group(UMG)と、世界的に普及している音楽制作プラットフォームのSpliceが、アーティスト向けの「次世代AI搭載音楽制作ツール」を共同で開発・研究することに合意したと発表した。
2025年12月18日に公開されたプレスリリースによると、今回の提携によって進められる開発ロードマップの根底にあるのは、クリエイティブな主導権と圧倒的な音質のクオリティを大前提とした商用AIツールの構築だ。このプロジェクトは、アーティストの知的財産(IP)を尊重しながら高品質なクリエイティブ要素を組み合わせるSpliceのAI対応ツール群(ループベースの「Create」やソフトシンセ「INSTRUMENT」など)を基盤としている。世界最高峰のアーティストを擁するUMGと、制作現場のスタンダードであるSpliceが手を組むことで、アーティストにとって「高い忠実度と芸術的意図の正確な表現を実現できる、高度な商用AIツールを構築する道筋」を提供するという。
注目したいのは、UMGに所属するアーティストが自分たちの独自のサウンドをSpliceのAIワークフローに取り込める「AI搭載の仮想楽器」などの研究も行われる点だ。アーティスト自身が製品開発に深く関わり、現場の声を反映させることで進められる予定だという。AIが自動で曲を作るのではなく、あくまでアーティストが自らの表現を正確に形にするための「高精度な道具」として、開発が進められる形だ。
UMGのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・デジタル・オフィサーであるMichael Nash氏は、今回の提携について次のようにコメントしている。
「Spliceとの提携により、クリエイティブ・コミュニティが最先端のAIツールを活用して芸術的表現をさらに深められるよう、イノベーションと倫理性の整合性を推進できることを嬉しく思う。戦略的テクノロジーの最前線において、Kakul Srivastava氏とそのチームと協力することを楽しみにしている」
また、SpliceのCEOであるKakul Srivastava氏も、「クリエイターに適正な対価を支払い、彼らが主導権を握り続けられるように設計されたAIツールの構築に時間を費やしてきた」と述べ、アーティストが最終的な成果物を信頼できるツールの普及に意欲を見せた。
UMGとSpliceは2024年6月に「AIを用いた音楽制作に関する原則」という声明に署名している。これは、AIを人間のクリエイターの代わりにするのではなく、あくまで人間を支援するための透明性の高い技術として使うことを約束したものだ。
SpliceはこれまでもAbleton LiveやPro ToolsといったDAWに自社ツールを深く組み込んできた実績がある。さらに、高品質な楽器音源で知られるSpitfire Audioを買収したことで、プロの作曲家からも厚い信頼を得ている。今回の提携は、こうしたプロ仕様の制作環境にメジャーレーベルが持つ公式なアーティストのアセットが正式に結びつくことを意味している。
今回の提携において最も重要な点は、AIが「権利不明のデータを学習する外部の脅威」から、「権利関係が整理された上で、既存のSpliceのAIワークフローの中で機能する正規のツール」へと、その立ち位置を明確に変えようとしていることにある。
音楽業界最大手の権利元であるUMGが、制作インフラを担うSpliceと組むことは、正当な報酬と権利保護を組み込んだ「AIのプロトコル(業界の標準的な仕組み)」を確立しようとする動きだと言える。昨年、UMGはUdioやStability AIとの提携を発表したが、今回のSpliceとの提携もAIをクリエイターを脅かす存在ではなく、ルールに基づいた「新しい楽器」として音楽ビジネスの中に正しく位置づけようとする守りと攻めの戦略の一環だといえるだろう。
text by Jun Fukunaga
