今夏、過去最高となる株価が500億円に到達したSpotify。しかし、そのCEOのダニエル・エク氏による最近のMusic Allyでの発言が現在、物議を醸している。
物議を醸したのは、エク氏の「アーティストがストリーミングで成功したいのであれば、変化する音楽の状況に適応し、リスナーとのエンゲージメントを高めなければならない」「3、4年に一度のレコーディングで十分だと思ってはいけない。今日のアーティストたちは、ファンとの継続的なエンゲージメントを作ることが重要だと気づいている。それは、作品に力を入れ、アルバムにまつわるストーリーテリングに力を入れ、ファンとの継続的な対話を続けることだ」という発言だ。
この発言は、現在のストリーミングが主流となっていることやコロナ禍でアーティストのライブ収入がなくなり、作品をリリースすることが収入を得ることになっている現実とも少ながらず関係があると考えられる。
その発言の前にエク氏は、「全体のパイが大きくなり、多くの人がそれに参加出来るようになった一方で、人々が限られたアーティストのみに焦点を当てる傾向があるのは非常に興味深い」、「公に“ストリーミングで得る収入に満足している”と言っているアーティストは見たことない。プライベートでは何度も言っているが、それは公の場でそういったことを言うインセンティブがないからだ。しかし、データを見る限りではストリーミング収入だけで生活出来るアーティストが増えていることは間違いない」と発言しており、Spotifyで楽曲をリリースしているアーティストの多くは実際のところ十分な収益を得られているとの見解を示している。
しかし、先述の発言は、アーティストがストリーミングで収入を増やすには、リリース回数が必要であり、作品クオリティよりも大量生産する姿勢が必要という意味で、多くのアーティストや音楽ファンから捉えられ、「アーティストがストリーミングで生計を立てられないのは、そもそもSpotifyが十分な割合をアーティストに配分しないからだ」といった批判も目立つ。
Spotifyの1再生で得られるロイヤルティは、ほかの競合サービスと比較しても低いと言われている。(現在、一般的に知られるロイラルティレートは、アーティストからの報告や調査機関の調査を基にしたもので、あくまで推定値であり、一概には言えない部分がある)。しかし、多くのアーティストはSpotifyから得られる収入が少ないことに不満を持っていることはこれまでにも何度も語られてきた。また今回の批判には大量生産することで、音楽の芸術性が損なわれ、安っぽくなるという意見もある。
Spotifyや競合のApple Musicなどストリーミングサービスからアーティストが得られる収入は、厳密に”1再生につき、いくら”というレートが設定されているわけでなく、比例分配ベースになっており、そのため支払われるロイヤルティのレートは曲ごとで異なる。またそのレートに応じた再生数分がストリーミングサービスが1ヶ月に得る総収益から支払われる山分け方式になっているため、人気曲を持つアーティストに有利になるという面がある。そのことからストリーミング人気がないアーティストは人気のあるアーティストと比べて、得られる収益は少ない。
ビジネスモデルを考えるとエク氏の発言どおり、現状、収入が少ないのであれば音楽を”大量生産”することで収益を積み重ねることはできるが、今回の発言では”音楽の価値”を巡って、様々な意見がSNS上で飛び交っている。
as a musician i am angry and disappointed that a company with so much global influence like @Spotify can be so irresponsible in the ways in which it supports the arts
— ZOLA JESUS OF TSUSHIMA (@ZOLAJESUS) July 30, 2020