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    Home»Music»TYCHO本人が最新作『Simulcast』を全曲解説! 各曲に対応するアートワークを同時に公開

    TYCHO本人が最新作『Simulcast』を全曲解説! 各曲に対応するアートワークを同時に公開

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    By Pointed on 2020年3月8日 Music
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    サンフランシスコを拠点に活動するスコット・ハンセンを中心としたプロジェクトであるティコ(TYCHO)。

    米ビルボードのエレクトロニックチャートで堂々の1位に輝いた実績に加えて、直近の作品『Epoch』と『Weather』が2作連続でグラミー賞ノミネートを果たすなど、エレクトロニカ/ポストロックを代表するトップアーティストとして活躍する彼らの最新アルバム『Simulcast』に対するスコット・ハンセン本人の全曲解説コメントが公開!また、同時に各曲に対応したアートワークが公開された。




    1. Weather

    この曲は、もしかしたら完成からいちばん遠かった曲かもしれない。様々なデモテープを聞き返し、それを何度も繰り返して、途方に暮れて最後の数バージョンに至ってようやく、このアルバムに収録したものに近い形になった。そういう曲はたいてい僕のお気に入りになる。もし、ティコのすべてについてを上手くまとめたプレイリストを作成したとしたら、「Weather」は間違いなくその中にはいる。この曲は始まりであり、終わりでもある。アルバム『Weather』から『Simulcast』を繋ぐのに完璧な曲で、このふたつの小道をつなぐ橋でもある。

    自分の私生活と仕事の両方をコントロールしようとすればするほど、それを止めてしまうまでは心の平安も本当の満足感もけっして得られなかった。そのことがこのプロジェクトの核心で、つまりかつて賢者が言ったように、素敵なピクニックを計画することはできても天気までは予測できない、ということなのだ。

    2. Alrightすべてが始まったのがこの曲だ。最初に強く感じたコンセプトで、『Weather』/『Simulcast』プロジェクトの構想がはっきり見えてきた節目だ。テーマ的にも様式的にも、プロジェクトが広がっていった中心点がこの曲だと思う。元々のコンセプトはボーカルヴァージョンの「For How Long」よりは、このインストゥルメンタルヴァージョンにずっと近いが、それでもまだ離れている。今回は本当にサンプリングに集中したけど、それはこれまでのキャリアを大いに支えにしてきたことで、またやりたいと思っていたことでもあるからだ。すべての楽器のパートを細かく刻んで、若い頃に影響を受けた90年代のエレクトロニック・ミュージックを思い出させる、サンプリングされた素材みたいに編曲したかった。この過程でたくさんのヴァリエーションが出来上がり、そこから際立った4つを『Simulcast』のために選んだ。10年間コンスタントに活動してきた後での『Simulcast』という変化は、長い旅の後でたどりついた休息場所のようだった。馴染み深い場所に戻って、休んで自分を取り戻す。僕にとってこの曲は、そういう考えを最もわかりやすく表現したもので、何もかもきっと大丈夫だと知らせてくれる癒しの声だ。

    3. Outer Sunset

    「Skate」をインストゥルメンタルに編曲した「Outer Sunset」は、ボーカルヴァージョンとは大きく違ったものになった。「Skate」ではドラムやベースを抜いた最小限の編曲にしたかった。そのふたつを付け加えるのは、編曲過程の始めの段階で試してみたのだが、どうしてもセイント・シナーの繊細な素朴さが圧迫されるように感じられた。インストゥルメンタルとして作り直すときにまず考えたのは、ずっと昔に僕に影響を与えたものに立ち戻ることと、ローファイなドラムブレイクを入れて曲の構成を落ち着かせることだった。そこにくぐもったトーンのギターとベースを組み合わせることで、僕がこれらのアルバム制作中に長い時間を過ごした、サンフランシスコの海岸の町“アウター・サンセット”のイメージと活力を連想させるものになった。

    若い頃、長い時間を水辺で過ごしたので、それが僕の仕事の一貫したテーマになっている。故郷はかなり暖かいところで、暑い夏の頃は川やフォルサム湖で過ごした。サンフランシスコに引っ越した後に一番恋しく感じたことが故郷のそういう環境だった。オープンウォーターで泳ぐのはまるで別世界のようだ。自分を取り巻く環境とつながる深い感覚に、かすかな恐れが入り混じっていた。

    サンフランシスコには海があるけど、一年中冷たく荒れているので、本当に楽しむにはウェットスーツを着てサーフボードに乗るしかない。アルバムの構想を書いて過ごした年に、一日のうちで気に入っていたのは、早起きしてアウター・サンセットの町へ向かい、海に入ることだった。その日その後に起こるどんなことも、小さなことに感じさせる海の圧倒的なパワーは、自分がどれほどささやかで取るに足らないかを気づかせてくれた。毎日が謙虚さのレッスンで、今までに作曲する過程で経験したよりも多くの平安をもたらした。振り返ってみると、あの年は僕の人生の中でも最高に創造面で刺激され、満たされた期間だった。僕はあれ以来、基準点としている調和と平穏を見つけた。

    4. Into The Woods

    僕が育ったフェア・オークスという名前の小さな町は、11平方マイルの、木々が密集したなだらかな丘陵で、川を見下ろす絶壁へと続いている。僕が自然界の美しさを称賛することを学んだ牧歌的な土地で、アーティストとして生涯ずっと、そこでの経験を音楽や映像を通じてつかみとる努力を続けるつもりだ。

    成人してから今までのほとんどはサンフランシスコで暮らしているから、どの方向にでもほんの少しドライブすれば開けた空間に行けるけど、街の中にいれば簡単にあの感覚を忘れてしまう。だから僕はできるだけ時間を作って、自然の中でしか見つけることができない穏やかさと帰属感という素晴らしい感覚を再び得ようと努めている。この曲は僕が得た最高のインスピレーションを称賛し、感謝する頌歌だ。



    5. Easy

    『Simulcast』のほとんどの曲は、中心地への回帰と若い頃の影響から離れることについてのものだが、「Easy」はもう少し前向きにしたかった。アルバムの中で最も自由を感じるこの曲は、数日間のうちにあっという間に出来上がり、制作過程のあいだも大きくは変わらないままだったので、このタイトルになった。この曲を書いたのは「No Stress」のセイント・シナーのボーカルをトラッキングした何日か後のことで、そのセッションでのアウトテイクをサンプリングしなおしたり細かく刻んだりして、より抽象的なものに作りあげるというのがアイデアだった。

    すべてナイト・ムーヴスのローリー・オコナーのブレイクを中心にして作られ、それを僕がループさせ、重ね合わせた。この曲での彼の演奏は本当に滑らかで歯切れがよく、僕はとても気に入っている。

    イントロは、エレクトロン社のAnalog Four MKIIを使用した。このアルバムを制作するあいだずっと素晴らしい閃きを与え続けてくれたシンセサイザーだ(「PCH」のリードなんかでも使用している)。ベースはフェンダー社のプレシジョンで、リードはミニローグ。発売されて数年のこのシンセサイザーは、今では僕のお気に入りの一台だ。これらの楽器はすべて、まろやかで温かみのあるサウンドを持っていて、曲全体が心地よい流れるような正弦波のように感じられる。

    6. PCH

    「PCH」は最終的には「Pink & Blue」になった曲で、曲作りのセッションをいる間の中でも、最後の方にコンセプトのひとつとしてまとまった曲だ。僕はパーカッションの要素に集中して、よりハイテンポに広がっていくような曲が作りたかった。アルバムの曲のほとんどは遅い曲だからね。後から考えると、初期のシンセサイザーでの仕事は『Epoch』の頃のインスピレーションにつながっている。始めのコンセプトでは、この曲は必要最低限の構成で、ボーカルを入れるのにうってつけのようだったから、そういう方針で制作を進めた。それが出来上がってみると、アルバムの中で最もポップで前向きな曲のひとつになったので、このインストゥルメンタルヴァージョンでは対照的なところが欲しかった。そして曲を完全に構築しなおしたりせずに、どれほど雰囲気を変えられるかが知りたかった。曲の構成は同じでなくてはならないが、ボーカルはシンセ・リードに置き換えた。

    置き換えた新しいリードは邪悪というくらいの切れ味のある暗さが欲しかった。言ってみれば、暑い夏の夕方に、太陽が沈み、闇がにじんでくるような感じだ。ひとつのパートを置き換えるだけで曲のエネルギーとムードが完璧に変わるのが本当に面白く感じられた。そういう曲作りの過程すべてについて多くを学び、ボーカルの強さも学んだ。

    この曲を書くあいだ、僕は長い時間を浜辺で過ごした。そして永遠の夏のエネルギーと色彩をアルバムジャケットにも取り入れたいと思った。巨大な赤い太陽を地平線に向かって追いながらPCH(パシフィック・コースト・ハイウェイ)を走っていくようなものが。



    7. Cypress

    「Cypress」は「Japan」のインストゥルメンタル・ヴァージョンであり、『Weather』の曲作りをする中では最初の方に出来たコンセプトの中のひとつだ。僕はちょうど日本の箱根への旅行から戻ったばかりで、糸杉の森の深い緑色を音へと翻訳するにはどうしたらいいか考えていたところだった。曲作りのこの時期の目標のひとつは、コードにもっと馴染んで、過去に自分がいつも書いていたのとは違うやりかたでコード進行を書いてみることだった。僕はいつも、モノフォニックのシンセサイザーを使って、1音ずつコードを組み立てて重ねていく。こうするとより深みが出る。「Japan」と「Cypress」は、この実験の結果で、2曲ともコアにはオルガン風のコード進行がある。

    どのアルバムでも、僕は一対になる“双子の曲”を作るようにしている。その2曲は共通のテーマと要素を持つ。例えば『Dive』では、「A Walk」と「Epigram」で、『Awake』ではタイトルトラックと、「Apogee」だ。ただ、これらの曲は同じキーなので、変化に乏しくならないように、アルバムの中では間をあけて配置した。今回のアルバムでは「Cypress」と「Stress」の2曲が“双子の曲”にあたる。キーを少し変えたので、アルバムの最後に並べて収録して、2部構成でひとつの曲として連続した夢のようにアルバムの最後を飾るフィナーレにした。

    この曲のアートワークはまさに曲を表現している。しかし僕にとって、これら2曲は、はっきりとサイケデリックなスペクトラムの両端を表している。僕はいつも赤色と青色の相互作用はとてもサイケデリックだと思っていた。色彩理論では、この相互作用は“振動”と呼ばれ、世間一般的には避けるべきものだ。けれども、僕たちの脳がこのコントラストから読み取るものには、どこかとてもパワフルなところがあって、地平線に見える蜃気楼にも似た、魅力的な不協和音だ。

    8. Stress

    「Stress」は、「No Stress」のインストゥルメンタル・ヴァージョンで、この「No Stress」は『Weather』の中で唯一ボーカル向けに書いた曲だ。そのため、この曲には、はっきりとしたリードがひとつもなかった。だから、魅力的なインストゥルメンタルへと編曲する過程はより複雑だった。「Stress」からのオリジナルコーラスでクライマックスに達する、3つの独立したパートからなる構成を作ることでゴールに到達した。サウンドデザインとインストゥルメンタル化は、意図的に、緊張と圧迫感とその後の解放が思い浮かぶように作られている。

    じつは「Stress」は、制作終了間際まで『Weather』のワーキングタイトルだった。不安とストレスが、僕の成人してからの人生とキャリアのすべてを形作り、動かしてきた。だから『Weather』と『Simlcast』では、それに立ち向かうことと、もっと持続しやすく、最後まで自分が正気を失わないようなプロセスをあみだすことが僕のゴールだったんだけど、上手くできたよ。アルバムのレコーディングの最後の2週間という、いつもとても張り詰めた状態になる時期まで、すべてが何とか対処可能だった。何であろうと自分がやることが定まって、それが永遠に変わらないと気づいたときには、それに沿って生きていくべきで、どんな問題点もしっかり捉えて、どんな細かなこともしかるべき場所に落ち着くようにするべきなのだ。皮肉なことに、すべてのアルバムのなかで、ただ一度だけ犯した技術的な間違いがあるのが、「Stress」なんだ。とても小さく、ささやかなものだけれど、アルバムを聴く度に僕はそれを耳にする。注意喚起としてはちょうどいいのかもしれない。ときには手放すべきときも……もしくは、そうするべきではないときもあると。

    この曲をアルバムの最後にもってきたのは、曲に隠されたメッセージを思い出させるものとして、それに冒頭の曲「Weather」に対するブックエンドとしてだ。この曲はまた、『Simlcast』の中では数少ない、僕が抒情詩の要素を残している曲でもあり、この一連のアルバムの最後を“これで終わり”として締めくくるのに明らかにふさわしい。

    この曲のアートワークは、箱に閉じ込められているような感覚を表している。あらゆる方向から圧力をかけられているが、温かみのある誘うような色彩のパレットもある。灰色の雲の裏側が銀色に輝いているように。もしも部屋の中に閉じこもって動けなくなっていたとしても、何か心地よい壁紙を貼ろうとするのと同じだ。




    TYCHO
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